中小企業診断士 榎本博之
新型コロナウイルス感染拡大により、様々な形で商業事業者に影響が及んでいる。その中で、プラスに作用しているのが食品スーパーマーケット(以下、SM)だ。生活インフラとして、近隣住民に対して縁の下の力持ちとして、文字通り「支えている」のだ。現場では、様々なリスクと闘いながら、大きな混乱も起こさず、安定的な運営を続けている。本当に感謝しかない。
今回は、現状のSM業界における現状を分析しながら、購買行動について整理したい。
売上高は増加している
SMの主要業界団体が発表した2020年4月の実績は既存店の前年同月比売上高は110.7%と大幅に増加している。首都圏ではその伸びは顕著で、個別企業のデータでは同120%前後で推移しているのが目立つ。家計簿アプリのデータ分析によると、外食支出が大幅に減少した一方で、食材の買物支出が20%程度伸びているという。つまり、コロナリスクを恐れた巣ごもり需要の買いだめではなく、日常の生活シフトにより外食から中食・内食への移行が進んだものと見るのが妥当と言える。
売上は客数と客単価に分化しているが、大幅に伸びているのが客単価だ。客数は減少している企業がほとんどだ。4月下旬からSMが密になりやすい場所として指摘され、来店の分散化や頻度の間隔を空けるよう要請があった。その結果、1回の買物が多くなり、来店頻度が減った。多くの消費者が冷静に状況を見極めて、買物行動を行っているのが伺える。客数については、新規顧客の増加と既存顧客の利用頻度の増加と両面で見る必要があるが、あまり新規顧客の増加には結び付いていないようである。東日本大震災の時は、購買行動の変化によって、コンビニエンスストアの利用支持が高まった。今回のコロナ禍で、どのような変化が現れるのか、引き続き注意を払う必要がある。
部門別で色合いが違う
部門別で見ると、青果、水産、畜産の生鮮部門が大きく伸ばしている。一方で、すぐに食べられる惣菜は前年同月比が95.3%と、昨年を下回る結果となった。外出自粛の影響で自宅での在宅時間が長くなり、その分調理に時間をかける人が増えた結果と言える。また、今後の収入減少への不安からか、節約志向からの内食シフトが考えられる。このような状況下で、消費者のニーズをくみ取り、SMならではの価値を提案として結びつけるかが、今後の支持となって反映されていくだろう。このあたりの取組みは一朝一夕にできるものでなく、平常時の対応が競争力に差となって現れる。実際に、現状の集客状況を見ても、企業によって開きが出ている。現状、売上が伸び悩む惣菜はコロナ後を見据えた取り組みが出てくるだろう。働き方が変わる中で、どのようなニーズや利用シーンが出てくるのか、注目していきたい。
購買行動の変化は戻らない
店頭で品薄になっている、小麦粉やパスタ類、バター類などについては、買いだめの傾向は否定できないが、販売データを見ると、売上が0ではないことから、全く店頭にないわけではない。マスコミの報道によって、買い求める意向は強まっているが、買う側の消費者が落ち着いた行動を取り続ければ、供給は安定してくるだろう。
新型コロナウイルス感染拡大の収束の目途が立っても、これまでの購買行動には戻らない。従来型の価格訴求重視、品揃え、プロモーション、売場づくりといったマーケティング的戦略のみに終始しているだけでは、競争力の向上は図れない。SM業界全体が、購買行動の変化、ネット通販との戦い、人口の減少を見据えた新たなビジネスモデル構築の段階に突入していくのは間違いない。
以上