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中小企業におけるCRMの使い方-実体験から

中小企業診断士 佐川博樹

顧客管理ツールというのは、往々にして大手企業のものと思われがちである。しかし、使い方によっては十分に中小企業でも売上や利益の増加に貢献する。

 

私の実体験をもとに、顧客管理ツールをどのように使ったらいいかお話ししたい。

 

■ 私の仕事 ■

まず、私がどのような事業をしているかをお話ししたい。

 

たいしたことではないのだが、いわゆる経営コンサルタントの仕事に関連しない文房具の企画と販売をやっている。工場を持たないもののメーカーと同じである。世間的には、こうしたメーカーのことをファブレスと呼んだりする。それほどかっこいいものではないが、実際に商品を企画設計して、作ってくれる工場を探して商品を試作して、それほど大きな量ではないが量産もしている。一般の企業と同じように在庫も持っているし、問屋や小売店への営業も行なっている。時には展示会にも出展するし、一般消費者相手の販売イベントにも参加したりする。

 

中小企業診断士としてや経営コンサルタントとして仕事をしている上では、それほどたくさんのクライアントがいるわけではないので、お客様の管理も煩雑ではないし数もそれほどない。いわゆる簡単な記録やアナログなメモ、ノートなどへの書き込みで十分に管理ができる。前回会ったスケジュールは手帳を見れば十分だし、次回までにやる作業についてもメモやタスクリストを作っておけば十分である 。

 

一方、文房具の企画販売については小売店、問屋さんなど非常に多くの顧客が関与している。小売店の場合には、どこの問屋さんから当社の商品を仕入れているかについても管理する必要があり、いわゆる商流を管理するのにアナログなものだけではなかなか難しい部分がある。

 

■ そこでCRM ■

数も多いし、管理内容も複雑になるので、こういう場合の顧客管理はやはりデジタルで SFA や CRM を使うことになるだろう。ただし、あまり色々なことをやろうとすると、デジタルツールに仕事を振り回されることになるので、個人的にはあまりたくさんのことをやろうとしない方がいいと考えている。

 

特に中小企業の場合には、人員も時間もお金も色々な事に制限があるので、いっぺんにたくさんのことをやろうとしない方がいい。実際に私も一人で運営しているわけだから、いっぺんにたくさんのことをやろうとするとすぐにパンクしてしまう。

 

■ 私はどう使っているか ■

それでは、どのように CRM を使っているのかについて話を進めていきたい。 

 

おそらくこの使い方は、全く CRM チックではない使い方だろうと思われる。本来なら CRM は営業担当からその上司、さらにはその上の取締役なども見るような大きなツールであるケースが多いからである。私の CRM の使い方はどちらかと言うとタスク管理に近いものだと思う。こういう使い方の方がおそらく中小零細企業には合致するのではないかと思う。

 

具体的には、次の3点で使っている。

 

第一点目は、純粋な顧客管理である。その小売店の担当が誰で、その小売店がどこの問屋と繋がっていて、過去にどういうやり取りをしたか、その履歴などが残っている。これは非常に基本的な使い方だろうと考えられる。

 

第二点目は、タスク管理としての使い方である。過去のやり取りの履歴などを CRM のツールで管理しておけば、どのくらいの期間、連絡を取っていないのか、営業に行っていないのかなどが見えるはずである。 B to B の仕事の場合に限らず、顧客に自分の会社のことを忘れられてしまっては仕事にならないと考えている。その点で、関係を維持するという意味でのタスクをしっかり管理することが大事だと考えている。

 

第三点目は、販売管理ツールとの連携である。顧客からの受注があれば、いわゆる販売管理ツールに注文を入力し、出荷を指示し、納品書を作り、請求書を発行する。この作業が CRM と連携していれば、第二点目のタスク管理とともに顧客との関係性が維持できてるかどうかを管理できる。

 

■ ポイントは関係の維持とフォローアップ ■

ここまで読んでもらうと既に気が付いた方もいらっしゃると思うが、 このようなCRM の使い方のポイントは、顧客との関係維持とそのフォローアップにある。

 

中小企業支援の現場にいると、多くの中小企業は新規顧客の開拓に力を入れているケースが多い。しかし、過去注文をもらった顧客については特に管理している様子もなく、待ちの営業になっているケースが多い。

 

一般的に言われることであるが、新規顧客を獲得するコストと既存客を管理するコストの間には5倍の差があると言われる。既存客を管理する方が安上がりというわけである。しかし、多くの中小企業の場合、こうしたセオリーを無視しているケースがよく見られる。

 

つまり、既存客の管理をしっかりやっていくことを CRM で実行してはどうかと考えるものである。実際、私のやっている文房具の事業では CRM を使って顧客の管理をしているし、営業の担当者とも CRM のデータを基に情報のやり取りをしているつもりだ。

 

それぞれの顧客の見込み案件を管理したり、個別の売り上げ情報を細かく分析したりはしていないが、 CRM の元々の意味である顧客関係の管理という意味では十分に活用できていると考えている。

 

なんだか夢のような、そして AI のような素晴らしいテクノロジーの背景を持って、仕事の質が劇的に変わるような CRM の使い方もあるのかもしれない。しかし、実は全く足元のやれていないことをデジタル化して管理するだけで、売上や利益の増加が見込める可能性は十分にある。

 

何か難しいことをする前に、本来ならばやるべきことを今できていないということがあれば、そちらを試してみる必要があるのではないだろうか。