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中小企業にとってのLGBT施策を考える

LGBTとは

LGBTという言葉を聞かれたことはありますか?

 

ほとんどの人は、新聞やネット、街中の広告などで一度や二度は目にしたことがあると思います。そして、それがセクシュアルマイノリティ(性的少数者)の総称であることくらいは知っているのではないでしょうか。しかし、自分が当事者である場合や、近親者などごく身近に当事者がいない限り、それについて深く考えることは少ないと思います。

 

LGBTは代表的なセクシュアルマイノリティの頭文字を取ったものです。すなわち、LESBIAN(レズビアン/女性の同性愛者)、GAY(ゲイ/男性の同性愛者)、BISEXUAL(バイセクシュアル/両性愛者)、TRANSGENDER(トランスジェンダー/性自認が身体上の性別と異なる人)です。それぞれ後付けのカッコ内にごく簡単な説明を加えましたが、一口にセクシュアルマイノリティといっても、様々であることが分かります。最近では、LGBTの後にQ(クエスチョニング/自身のジェンダーについて決めかねている状態の人)、A(アセクシュアル/異性・同性に対して性的指向を有しない人)などが加えられることもあります。データにもよりますが、全人口の3~10%がそれに該当すると言われています。

 

LGBTを取り巻く社会環境

 LGBTが語られるとき、「社会や職場が多様性を許容し、ダイバーシティを実現しましょう」といった文脈のものが多いのではないでしょうか。その背景には、長く続いた男女性の区別に立脚した社会構築や仕組み、常識というパラダイムの陰で生きづらさを感じていたセクシュアルマイノリティの存在もあります。最近では、パートナーシップ制度など同性カップルに対して、一定の条件を満たすことで夫婦と同等の待遇を適用する自治体も増加しています。しかしその一方で、待遇改善への根強い慎重論などもあり、課題解決への障壁の一端も伺い知れます。

 

見えざるペンの正体

 筆者には、過去、これについて考える印象的な出来事がありました。それは、約20年前、まだLGBTという言葉が今ほど知られていない頃、ある職場で企画職として働いていた時の話です。その職場には、ゲイをカミングアウトしているイギリス人のデザイナーが在籍していました。

 

ある日、職場での酒宴の席で、彼を中心に恋愛対象の話となり、「I am normal(私は普通です)」と自分のことを表明したところ、彼は「I am normal, too(私も普通だよ)」とすかさず、冷静に返してきました。この返答に私は虚を衝かれたような感覚になり、二の句を失いました。なるほど、自分を普通と言ったことは、暗に相手を「普通じゃない」と決めつけていることと同意であったことを知らされたのです。

 

性的指向などは関係なく、彼がデザイナーとして素晴らしい仕事をしていることは知っていましたが、彼がどのような半生を生きてきたかまでは知りませんでした。恋愛対象が女性であることが普通な自分と同じように、彼にとっても対象が男性であることは普通なことです。

 

ただ漠然と、性的指向においては大多数である自分と、少数者であるゲイとの間に見えざる線引きをしていたことに気づかされました。線引きをしたペンは、おそらく、それまでに私がテレビや雑誌から見聞きした情報や表現を、思慮なく受け入れて形づけられた評価、それそのものと言えます。これに限ったことではありませんが、正確な認識のない伝聞や思い込み、空気に乗っただけの評価は、時として浅薄さを伴います。

 

職場におけるLGBT施策

セクシュアルマイノリティは一部を除き、当事者がカミングアウトをしない限り、外見からは判断できない場合がほとんどです。それだけに、職場での何気ない会話が、多数者にとってはそうではなくても、セクシュアルマイノリティにとってはハラスメントになり、傷つけてしまったり、居心地を悪くさせてしまったりすることがあります。

 

当事者にすれば、カミングアウトをするにしても、それが受け入れられる土壌や理解がなければ立場だけが悪くなる可能性がぬぐえず、一歩踏み出せない場合もあるでしょう。反対に、職場にLGBT施策がある場合、ダイバーシティ意識が社員に浸透して、当事者・非当事者に関わらず勤続意欲(職場に対するエンゲージメント)が高まるといったデータもあります(※1)。

 

しかし中小企業の経営者・事業者にとっては、LGBT施策といっても、どこか他人事や遠くの出来事のように捉えられるかもしれません。少し飛躍しているかもしれませんが、欧米ではCEOであっても、LGBTを含む性差への差別的な発言によって更迭されることは珍しくありません(近年、国内を見渡してみても同様のケースがみられます)。

 

インターネットの普及による情報の即時性とボーダレス化、企業のSDGsへの取組姿勢に対する投資家評価の高まりなど、他の事象がそうであるように、確実に時代は変わりつつあります。また、足元では、若年層を中心に人材不足が深刻です。性差を越え、自社の社員が生き生きと仕事ができる環境を提供することで、次代を捉え、問題を克服するきっかけを掴むことが出来ます。

 

※1 認定NPO法人虹色ダイバーシティ、国際基督教大学ジェンダー研究センターによるアンケート「ダイバーシティ意識×勤続意識」(2014)より

 

中小企業のLGBT施策としてのアライの表明

では、施策として何から始めるべきでしょうか。

そのひとつのきっかけとして、アライ(Ally=支援者)の表明があります。アライとは、セクシュアルマイノリティを積極的に支援する人をいいます。職場にセクシュアルマイノリティに対する相談窓口やアライがいる場合はストレスを軽減し(※2)、当事者・非当事者に関わらず社員に安心感を提供でき、貢献意識を引き出す効果も期待できます。

 

社内でのLGBT施策として、経営者の皆さんにこのアライになっていただき、表明することをお勧めします。そのために、まずセクシュアルマイノリティに対する正確な認識から始めてみてください。その気になれば、情報はインターネットや書籍から、すぐにでも得ることができます。

 

※2 認定NPO法人虹色ダイバーシティ、国際基督教大学ジェンダー研究センターによるアンケート「アライの有無×ストレス」(2014)より

 

以上