中小企業診断士 川口 紀裕
2019年5月に成立した「改正労働施策総合推進法」(別名パワハラ防止法)が2022年4月1日より中小企業にも適用され、全ての企業でパワハラ対策が求められます。
企業の経営者がパワハラ対策を行う大前提として、そもそもどんな行動がパワハラに該当するのかを正確に理解していなければなりません。ここでは改めて厚生労働省の定義を用いながらパワハラとは何かについて確認していきましょう。
厚生労働省が明らかにしているパワハラの定義は以下の通りです。
『職場におけるパワハラとは、職場において行われる
1)優越的な関係を背景とした言動であって、
2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
3)労働者の就業環境が害されるものである
(1)から3)までの要素を全て満たすものが該当)』
なお、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しない。」ということを注意点としてあげています。つまり、パワハラは客観性が求められるということであり、受け手の主観だけで決まるものではありません。
(ここはセクハラと大きく異なる点です。)
上記の定義について、いくつかの項目毎に解説します。
■職場について
職場とは労働者が業務を遂行する全ての場所のことです。事務所内はもちろんのこと、外出先、出張先、移動中の車内、業務の延長上である宴会などは全て職場に該当します。
上司から部下を誘った飲み会も職場と認定されたことがあるので、様々な場所を職場と捉えていたほうが良いでしょう。
■優越的な関係について
優越的な関係では2つの関係があります。1つは、職務上の地位が上にある関係、もう1つが同僚又は部下である関係です。
・職務上の地位が上にある関係
社長が社員に対して、部長が部員に対して行うなど加害者が被害者より職位が上にいる関係です。
パワハラといえば、この関係を思い浮かべる方が多いと思います。
・同僚又は部下である関係
加害者が被害者の同僚または部下の地位にいる関係です。
厚労省では以下の2つの場合を示しています。
1)同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
2)同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難なもの
■業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
社会通念に照らして、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当ではないことをいいます。
必要性のない言動、目的を大きく逸脱した言動、手段として適当な言動があたります。また、当該行為の回数、行為者の数等その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動です。
特に裁判においても、当該行為の回数(執拗に何度も行われているか)、当該行為者の数(集団によるいじめになっていないか)などは、判断する際に確認している点と言われます。
なお、労働者の行動が問題になる場合は、内容と指導の相対的な関係性が重要な要素となるとしています。例えば、何度上司が指導をしても部下が問題行動を改めないような場合には、当然、厳しく指導することもあり得るということです。部下に問題があれば、上司もそれなりの対応をすることが許容される、ここからもパワハラは客観的に判断されるということがうかがえます。
定義の続きは次回の筆者担当の記事でご紹介します。