中小企業診断士 大山昇
巷では「ChatGPT」や「生成AI」など、最新テクノロジーの話題が沸騰しています。
実際にこうしたテクノロジに触れてみると、ここ数ヶ月で数年分の進歩が一気に訪れた感があり、盛り上がるのもうなずけます。
筆者はサラリーマン時代に20年以上ITに携わってきたこともあり、独立後も中小企業の皆様へIT化やDXのご支援を提供することが多いのですが、そうした現場でも最近は最新のAIに関する話題を振られることが多くなりました。
こうした言葉が毎日耳に飛び込んでくると
「自社も何かしなくては」
と焦る気持ちになるかもしれませんが、ひとまず落ち着いて足元を見つめ直した方がいいことも多くあります。
ある、老舗旅館の例
例えば、筆者がある老舗の温泉旅館でIT化に向けたご支援をした時の話です。
この温泉旅館はすべての客室が離れとなっていて、静かでゆったりとした時間が流れる、非日常空間を感じられるとても素敵な高級旅館でした。
敷地内には売店や料亭なども併設されており、宿泊者は外に出ずに何日でも過ごすことができます。
そうしたところで飲食や買い物をすると「部屋掛け」と言って、泊まっている部屋に料金をツケておくことができるのですが、この業務がアナログになっていることが悩みの種でした。
手書きの伝票でやり取りするため、間違いや集計の手間が発生していたのです。
改善に向けて検討した結果、この部分に
「オーダーエントリーシステム」
と言って、よく飲食店のテーブルに置いてある注文タブレットのような仕組みで、部屋掛けの業務を効率化しようか、と検討することになったのです。しかし、実は、当社で導入済みの基幹システムにおいて、そのオプション機能に「部屋掛け」の機能があることが判明したのです。
新しくオーダーエントリーシステムを導入するよりは、オプションでその機能を導入した方が安くできるのですが、一切そのことは共有されていませんでした。
どうしてそうなっていたかというと、担当者によれば
「オプションとはいえ、お金が余分にかかるので、なるべく安く導入をしなければならない状況下、検討の対象にのせづらかった」
とのこと。
悪気はなかったとはいえ、結果として、部屋掛けの業務が非効率で不正確なものとなっており、困り事を助長してしまっていたわけです。
導入済みシステムを使い切る
このように、IT化を進めるにあたっては、自社ですでに導入済みのシステムについて確認すると使っていない機能の中で問題が解決することも多くあります。
また、このケースの場合、基幹システムの導入時に、担当者には部屋掛けの機能を入れた方がいいという認識はあったようなのですが、言い出しにくい雰囲気があったようで、コミュニケーションを取りやすい空気を醸成できていれば改善はもっと早く進んでいたのかもしれません。
・既存システムの機能の棚卸
・コミュニケーションの改善
いずれも費用をかけずに自分たちで取り組むことができるので、IT化の前に取り組んでみてはいかがでしょうか。
以上