· 

指標の因数分解で改善検討をスムーズに

中小企業診断士 栗田一正

 

昭和56年12月生まれの私は、今月(令和5年12月)で42歳。世界銀行が公開した2021年のデータによると、日本人の平均寿命は84歳。ちょうど折り返し地点(ハーフタイム)です。前半戦を一言で回顧すると「文系100%」。そんな私の後半の采配は、180°舵を切って理系重視で挑むつもりです。

 

きっかけは、名著『ファクトフルネス』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著、日経BP社発行)との出会い。真実や本質を明快に映し出すデータの有用性に衝撃を受けました。それ以来、データ・ドリブン思考を心がけ、直感や経験だけに頼った意思決定を排除中です(直感や経験をすべて否定するわけではありません)。

 

因数分解で現状をわかりやすく

データ活用による意思決定では多くの「指標」と対峙します。指標は現状を端的に示すツールとして有効です。ただし、私は指標を因数分解して、検討の深掘りを促す方法を重宝しています。

 

因数分解といえば中学時代、x²+9x+20の2次方程式を(x+4)( x+5)の1次方程式にわかりやすく変形しました。もう遠い記憶ですが、要するに因数分解は「わかりづらい数式をわかりやすく分解」するものと認識しています。

 

「売上=客数×客単価」では不十分

この因数分解の考え方を指標にあてはめます。例えば、売上高。売上高を求めるときによく使われる数式は「客数×客単価」です。ところが、客数、客単価はシンプルに見えるのでよく使いがちですが、どちらも解像度が低い(具体性に欠ける)ので、私からすれば複雑怪奇、魑魅魍魎でしかありません。

 

そこで客数を「既存顧客」「新規顧客」、客単価を「購入数」「平均購入単価」に因数分解します。すると、売上高の指標は次のように深掘りできます。

  • 売上高=客数×客単価
  • 売上高=(既存顧客+新規顧客)×(購入数×平均購入単価)
  • 売上高=既存顧客×購入数×平均購入単価+新規顧客×購入数×平均購入単価

1.よりも2.、2.よりも3.と、下に進むにつれて解像度が高まり、検討の深掘りに貢献しそうなのが一目瞭然ではないでしょうか。

 

ちなみに、ECサイトの場合、売上高はアクセス数×買上率(CVR)×客単価で表します。これも次のように因数分解できます。

  • 売上高=アクセス数×買上率(CVR)×客単価
  • 売上高=(検索エンジンからの流入数+SNSからの流入数+広告からの流入数)×CVR×客単価
  • 売上高=検索エンジンからの流入数×CVR×客単価+SNSからの流入数×CVR×客単価+広告からの流入数×CVR×客単価

上記の数式に実際に数字を入れてみると、現状の問題箇所を浮き彫りにできます。そのため、どの部分を改善すれば効果的なのか判断しやすくなるはずです。

 

まとめ

今回は売上高を指標の例に用いましたが、指標の他にもたくさんあります。生産性(産出量÷投入量)、ROAS(売上÷広告費用)、FLR比率((食材仕入+人件費+家賃)÷売上)などなど。指標は有効なツールですが、一見シンプルなものほどつかみどころのない複雑性を秘めます。因数分解でわかりやすく解きほぐして現状の問題点を抽出し、経営改善に役立ててはいかがでしょうか。

 

以上