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11月からフリーランス保護新法が施行されます

中小企業診断士 木村孝史

1.フリーランスとは

フリーランスは一般に、特定の企業や組織などに所属せず、企業などから業務の委託を受けて働く事業者を指しています。総務省調査によると、本業がフリーランスの数は209万人、別の内閣官房調査では、本業214万人・副業248万人の合計で462万人と示されています。

 

政府による働き方改革やワークライフバランスの考え方が浸透し、人手不足が懸念される中で働き方の多様化が進み、副業・複業を認める企業も増えています。コロナ禍を経てオンラインで業務を推進する環境が一気に整備され、在宅ワークやテレワークも積極的に採り入れられている状況です。納期や品質に問題なければリモートで業務を推進することも日常化していますので、遠隔地のフリーランス活用を検討する発注者も増え、活動が限られるフリーランスでも比較的業務を受託しやすい環境になることが十分に見込まれます。

 

特に、デザイナーやエンジニア、動画制作、コンサルタントなどの業種での活動が顕著で、今後とも自身の経験やスキルを活かして業務を受託するフリーランスが増えていくと考えられます。

 

2.フリーランスの業務や取引の現状

前掲の内閣官房調査によると、主な取引先は消費者ではなく、事業者から業務委託を受けて仕事を行う形態が最も多く全体の43%を占めています。取引先とのトラブル経験が多いのもこの取引形態で全体の54%を占めています。

 

その内容には「発注時に業務内容や報酬が明示されなかった」や「報酬の支払が遅れた・期日に支払われなかった」などが多く挙げられ、フリーランスでの働き方が普及してきた一方で、取引先との関係を通じた問題やトラブルも増えています。

 

フリーランスでの働き方全般については、収入が安定しないながらも私生活との両立や達成感などの満足度が大きく、今後もフリーランスとして働き続け、事業規模の維持拡大を図りたいとの多くの声が上がっています。

 

そのような中で、「フリーランスが安⼼して働ける環境を整備するため、フリーランスと企業などの発注事業者の間の取引の適正化と、フリーランスの就業環境の整備を図る」ことを目的として、フリーランス保護新法が制定されました。

 

3.フリーランス保護新法の概要

フリーランス保護新法は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下、新法と呼ぶ)が正式名称で、昨年5月に公布され今年の11月から施行されます。新法はフリーランスに業務委託する場合に適用され、消費者を取引先として委託でなく売買をしている事業者には適用されません。

 

従業員を使用しない個人や代表のみの法人はフリーランス(特定受託事業者)、フリーランスに業務を委託する事業者で、従業員を使用する個人や法人は発注事業者(特定業務委託事業者)と規定されています。

 

発注事業者には、①書面等による取引条件の明示、②報酬⽀払期⽇の設定・期⽇内の⽀払、③発注事業者の禁止行為(受領拒否、報酬の減額など7項目)、④募集情報の的確表示、⑤育児介護等と業務の両⽴に対する配慮、⑥ハラスメント対策に係る体制整備、⑦中途解除等の事前予告・理由開⽰について、様々な義務や禁止行為が定められています。

 

重大な違反が認められる場合には勧告や公表、罰則等の措置が講じられます。今後、業務委託が見込まれる場合には、口約束だけで発注しないことはもちろん、業務内容や60日以内の支払日などが書面に明記されているか、また、半年以上の業務委託の場合には育児や介護などと業務を両立させる配慮が必要など、契約時の再確認をお勧めします。 

 

4.留意点とまとめ

新法では、代表以外に週20時間以上かつ31⽇以上の労働に満たない従業員や同居親族の従業員がいても、カウントされずフリーランスとみなされますので、適用要件に関わる従業員の雇用状況の確認は重要です。

 

また、会社の従業員であっても、副業で他社から業務委託を受ける場合はフリーランスとみなされます。なお、フリーランスがフリーランスへ業務委託する取引においては、上記①書面等による取引条件の明示義務については適用される点に留意が必要です。

 

新法では、業種・業界の限定はなく、フリーランスへ委託される物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務提供の業務がすべて対象となります。建設業法における建設工事は下請法では適用外とされていますが、新法では適用となります。

 

また、フリーランスに業務を委託する発注事業者の多くは資本金1,000万円以下とも言われ下請法では適用外とされていますが、新法では資本金の規模は要件とされません。

 

資本金の規模や業務内容などに関わらず、業務委託においてフリーランスによる取引の安全を確保する新法の役割が期待されます。        

以上

 

参考

・「 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律

(フリーランス・事業者間取引適正化等法)パンフレット」(2024年7月)

・「令和4年就業構造基本調査」(総務省統計局)(2023年7月)

・「フリーランス実態調査結果」(内閣官房日本経済再生総合事務局)(2020年5月)