中小企業診断士 小黒 光司
物価高騰が続き中小企業製造業者を中心に値上げが喫緊の課題となっています。
大企業においては値上げをマスコミがニュースとして大々的に報道しており、一般の消費者を始め再販業者においても納得せざるを得ない状況となっております。
しかし、中小企業、特に下請け型製造業者においてはなかなか値上げが難しい状況が続いております。親会社に値上げ要請をしても簡単には値上げを認めてくれません。大企業の仕入れ担当者は社命により出来るだけ安く仕入れるように指示されています。値上げを認める場合は、値上げの正当な理由が必要となります。
下請法により親企業は下請け企業の値上げ要請に対して十分話し合いを行い、正当な値上げを認めるよう規定されています。下請事業者は、社会全体の物価上昇と自社の原価上昇、必要経費の上昇額など正確に数字で示す必要があります。これは中小企業、特に小規模事業者にとってはかなりハードルの高い作業となります。
特に多品種少量生産品や特注品など単品の原価計算は手間がかかり正確な原価計算が難しいのが実情です。そこで、過去の販売実績から製品群の基準原価を割りだし、これに人件費上昇分と一般管理費を上乗せし値上げ率を決定するのが効果的です。親企業も自社の値上げを計画しているので、仕入れ原価の許容範囲を決めています。
この範囲内であれば値上げ交渉は比較的順調に進みます。以上がオーソドックスな交渉方法ですが、これでは営業利益が増加しません。
国内消費需要が低迷し、輸出もアメリカの関税引き上げで先行き不透明な状況ですので逆にこれを逆手にとって便乗値上げを検討してみてはいかがでしょうか?
コロナ終息後、大幅に利益を増加させている企業と相変わらずコロナ融資の返済に苦労している企業が二分化しています。インバウンド関連企業は売上増加と大幅値上げで利益を伸ばしていますが、インバウンドと関係ない企業においてもこの二分化が進んでいます。下請け型製造業においてもこの傾向が顕著で、積極的に値上げ交渉を行い、売上総利益率を増加させ結果的に営業利益を大幅に増加させている企業も多くみられます。
前述した値上げ交渉だけではなく、値上げに導く物語を作ることが重要になります。下請け法に規定されているように大上段に構え交渉するのではなく、まず「お願いと笑顔」から入ることが重要です。仕入れ担当の交渉相手をリラックスさせ、対立するのではなくこちらの物語りに引き込み、値上げがお互い将来の利益に結び付くことを納得させることです。
こうすれば、前述した理論値以上の値上げが実現できることになります。
下請法は下請け業者(現在呼び方を「中小受託事業者」に改める予定)の権利を保護し、下請け業者の発展を目的としておりますので当然値上げ交渉のなかで下請法の話が出ます。親企業にとっては都合の悪い話をしますので、出来るだけ自分の意見としてではなく国が言っているというスタンスが大事です。言いずらいことは人のせいにするのがコツです。
以上の点から、値上げ交渉は
- お願いと笑顔はタダ
- 言いにくいことは人のせいにする
この2点を意識して値上げ交渉を行ってください。
値上げ交渉に困ったら、お近くの中小企業診断士にご相談ください。
中小企業診断士は値上げ交渉のための原価計算や値上げに至るストーリー作りの専門家です。
以上